歯科治療で切除された歯肉から作製したiPS細胞を用いて、顎の骨や歯の再生医療を目指した研究に取り組んでいます。
グループリーダーの江草は、世界に先駆けて歯茎(歯肉)からiPS細胞を作製し、歯肉の細胞を用いるとiPS細胞の樹立が容易であることを示しました(Egusa et al. PLoS One 2010)。また、歯肉の細胞はiPS細胞を維持するフィーダー細胞にも利用できることを明らかにし(Yu et al. J Dent Res 2016)、歯肉がiPS細胞の有望な細胞資源のひとつであることを示しています。この成果に基づく特許は、米国バイオ企業との実施許諾契約に至っており、創薬研究や再生医療への展開が期待されています。また、マウスの歯肉から作製したiPS細胞から成熟した骨芽細胞に誘導する方法を確立し(Egusa et al. Stem Cells Dev 2014)、試験管内で三次元的な骨様組織を作製することに成功しています(Okawa et al. Stem Cells Int 2016)。一方で、歯肉から作製したiPS細胞からは、複雑な皮膚器官系の再生も可能であったことから(Takagi et al. Science Advances 2016)、この細胞を用いた歯の再生も可能であると期待し研究を進めています。
細胞や組織を機能的に制御する人工生体材料の開発に取り組み、そのインプラント治療あるいは骨や軟組織の再生医療への応用を目指しています。
山田将博講師らはこれまでに、食品に含まれる栄養素であるNアセチルシステインを利用することで、細胞為害性を示す様々な歯科用修復材料や(Yamada et al. J Dent Res 2008, Minamikawa et al. Biomaterials 2010, Minamikawa et al. J Endod 2011)、骨補填材料を解毒できることを見出しています(Tsukimura et al. Biomaterials 2009, Yamada et al. J Dent Res 2010, Yamada et al. Clin Oral Impl Res 2011)。また、この栄養素は、骨再生のための多機能性分子として働き、骨芽細胞の細菌感染抵抗性を高めると同時に(Yamada et al. Biomaterials 2011)骨形成能を向上させることを発見しました(Yamada et al. Biomaterials 2013)。
一方、生体模倣性ナノ表面改質技術を用いることで、世界で初めてチタンと歯肉線維が結合することを動物実験レベルで示唆しています(Kato et al. Dent Mater 2015)。この技術で表面改質したチタンはヒト皮膚線維芽細胞の機能を向上させるとともに、その細胞外基質と強固に結合することから(Yamada et al. Biomed Mater 2016)、歯科用インプラントだけでなく顎顔面インプラントのような経皮的インプラントへの応用が期待できます。
歯科が対象とする頭頸部の間葉組織の多くは第四の胚葉と言われる神経堤から発生すると考えられています。一方、大腿骨の骨髄中には、神経堤に由来する間葉系幹細胞が含まれています(Morikawa et al. Biochem Biophys Res Commun, 2009)。
新部邦透助教らの研究グループは、大腿骨の骨髄中に存在する中胚葉由来の間葉系幹細胞が、神経堤に由来する神経・グリア・平滑筋にも分化することを報告しました(Niibe et al. Inflamm Regen, 2011)。また、これら神経堤細胞の性質をもった間葉系幹細胞を用いることでiPS細胞を効率的に作製できることを報告しています(Niibe et al. PLoS One, 2011)。当研究室では、このような神経堤幹細胞に類似した間葉系幹細胞の集団を用いることで、これまでに困難であった歯原性間葉組織から象牙質・歯髄・歯根膜や歯槽骨を作り出す技術を目指した研究に取組んでいます。
オールセラミック・ハイブリッド型コンポジットレジンなどによる金属を使用しないメタルフリー修復について、治療終了後の長期安定性の実現を目指して臨床と基礎の両面から研究を行っています。
三浦賞子助教らはジルコニアオールセラミック修復、フルジルコニア修復およびCAD/CAMハイブリッドレジンクラウンなどのメタルフリー修復について装着後の予後調査を行っており、治療終了後に生じるトラブルのリスクファクターや、失われた機能を良好に回復し長期にわたり維持するための要件を統計学的に検討しています。ジルコニアオールセラミッククラウンの予後調査では、装着後のトラブルとして早期の陶材破折が多いことを示しました(Takeichi et al. J Prosthodont Res 2015)。
一方、基礎研究では歯科用CAD/CAMシステムで製作したジルコニアオールセラミッククラウンの適合精度が、従来の鋳造法で製作したメタルクラウンと同等の辺縁間隙量であることを明らかにしました(Miura et al. Dent Mater J 2014)。また、陶材破折の起こらない優れた物性を有するジルコニアオールセラミック修復物作製の至適条件の検討を行っています。さらに、メタルフリー修復材料から成る補綴装置の形状および支台歯形態について、3次元有限要素法を応用した応力解析を行うことで、支台歯やその他の支持組織の保護を目指した、力学的に安定したメタルフリー補綴装置の設計を追求しています。
原田章生助教らはCAD/CAMハイブリッドレジンクラウンは支台歯との一体化を図ることで大臼歯への適用の可能性を示すとともに(Harada et al. Eur J Oral Sci, 2015)、材料学的に疲労を加えたクラウンの強度についても報告しています(Ankyu et al. Eur J Oral Sci, accepted)。CAD/CAMレジンクラウンは保険導入されて間もなく、その長期予後は不明な点が多いため、三浦助教らの臨床研究と連携を図りながら、より優れた物性を有し長期予後を期待できる修復物製作に向け基礎的研究を進めています。
奥山弥生助教らは支台歯形成に関わる「技術の客観的評価」について研究を行っています。3Dスキャナーによる高精度・高速の三次元計測を応用し、測定データに基づいた定量的評価ソフトを開発中です。特徴は、より臨床に近い環境下での支台歯形成を想定し、「隣在歯損傷のデジタル評価」を加えている点です。
「技術の客観的評価」は教員が行う主観的評価結果との整合性が問われる難しいテーマであります。歯学教育の標準化・高度化を目指して、この難題に挑戦しています。当面の目標は、学生が支台歯形成の評価結果をわくわくした気持ちで見られるようなCG表示を作り、次の目標を具体的な数値で設定できるソフトの開発です。
菅野太郎助教らの研究グループでは、歯周病やウ蝕といった歯科における感染症の治療を目的として、活性酸素を応用した新規抗菌療法の研究開発を行っています。活性酸素とは、高い反応性を有する酸素由来の化学物質の総称であり、狭義には一重項酸素、スーパーオキシドアニオンラジカル、過酸化水素、ヒドロキシルラジカルを意味します。これらの活性種は、体内に侵入した微生物を殺菌するために好中球が生成していることが知られています。したがって、人工的にこれらの活性種を生成し、濃度(生成量)、暴露部位、処理時間などをコントロールすることで新たな殺菌技術として応用することができます。
ヒドロキシルラジカルは活性酸素の中でも最も高い酸化力を有しており、その酸化力に由来する強い殺菌作用を発揮します。しかしながら、ヒドロキシルラジカルの半減期は非常に短く(ナノ秒オーダー)、一定濃度の薬剤として用いることはできません。そこで、我々は、3%過酸化水素に青色可視光や紫外線(波長:365~405 nm)を照射することで光分解反応を引き起こし、ヒドロキシルラジカルを局所で生成して殺菌を行う方法(過酸化水素光分解殺菌法)を開発してきました。これまでに過酸化水素光分解殺菌法は歯科疾患に関連した種々の病原菌に対して有効であること、さらにバイオフィルムを形成した細菌に対しても強い殺菌作用を発揮することを実証してきました。一方、本殺菌法の安全性については、動物試験で検証し、殺菌消毒処理を想定した過酸化水素光分解殺菌法による短時間処理(2分×3回)では、口腔粘膜に組織学的な異常を引き起こすことはないことを確認しました。これらの研究成果を基に過酸化水素光分解殺菌法を応用した新規歯周病治療器を開発しました。本治療器は歯周ポケット内で根面のデブライドメントを行うとともに、過酸化水素光分解殺菌法を併用することで、より高い治療効果を得ることを目的としています。現在、東北大学病院を中心として医師主導治験を実施し、臨床的な有効性と安全性の検証を行っています。
本殺菌法は、歯周病治療以外にもウ蝕、インプラント周囲炎、感染根管などの治療にも応用できると期待し、イエテボリ大学(スウェーデン)やトロムソ大学(ノルウェー)と国際連携プロジェクトとして研究を進めています。また、過酸化水素光分解反応以外のヒドロキシルラジカル生成系や光増感反応による一重項酸素生成系を殺菌技術として応用するための研究も進めています。